理論【下眼瞼内反症・外反症】

はじめに

眼表面に対する睫毛の方向性に異常がある場合、原因となるのは瞼板の方向性か、瞼縁での毛根の方向性かであると考えられる。
前者であれば瞼板を支える靭帯などに問題があり、眼瞼の骨格を考えた根本的治療が必要である。後者であれば眼瞼前葉と後葉の関係に問題があるのでそれを是正する治療をする。

下眼瞼の骨格

横方向の骨格

瞼板は眼球の球面に沿って密着している。
眼球のモデルに、角膜下縁に包帯の上縁がくるように包帯を巻いてみる。どこにも固定せずに巻くためには、図のように後方を高くして円周上に巻くしかない。この状態が、最も包帯が幅広く眼球に接する固定の仕方であろう。
これこそが下眼瞼と眼球との関係である。瞼板の縦幅すべてが眼球の球面に接するためには、左右が少し持ち上がって固定されるのが効率よい。この方向は上下にまっすぐな皮膚とは全く異なるものである。

例えれば相撲のまわしのように、丸いものの形を尊重して下から横にフィットして支えているのが望ましい。
下眼瞼を観察するときには、この瞼板の骨格が方向よく形成されて球面に密着しているかどうかをまず見なければならない。

縦方向の骨格

眼球のモデルにマスクをしてみる。角膜下縁に接するようにかけると、図のような形になると考えられる。このとき、マスクは真横だけでなく下方向にも引っ張られている。これにより平面のマスクが球面に密着するのである。
マスクの布が下瞼板に、下方のひもが下眼瞼牽引筋腱膜にたとえられる。下眼瞼で平面の瞼板を球面に密着させているのは、下眼瞼牽引筋腱膜である。 

下眼瞼には下眼瞼牽引筋腱膜 lower lid retracterがあり、下眼瞼瞼板を下方に引っ張っている。眼瞼挙筋と対称的な構造をしている。下直筋と連続性があり、筋肉ではないため縮みはしないが、下方視をしたときに眼球と一緒に下転する。
カーソルを画像に乗せると、眼球が下転したときの様子が示されます。

上記のマスクの下方のひもが切れたとするとどうなるであろうか。
下方は球面に密着せず、重力に逆らわずに褌(ふんどし)のように垂れ下がる。これを眼瞼に例えれば、瞼縁はやや内反気味になっていることになる。そして何かの拍子で瞼板ごと内反し、ちょっとした指の力を加えると、「くるん」と元に戻るであろう。これこそが老人性内反症の状態である。下方に密着させる支えが外れているために瞼板全体が反転してしまうのである。

縦方向の支えであるlower lid retracterが瞼板からはずれると、眼輪筋の力にて内反になる。
カーソルを画像に乗せると、眼球が下転したときの様子が示されます。

下眼瞼牽引筋腱膜の状態を観察する方法

正常の下眼瞼を指で下げ、裏の赤い所を見せる(あかんべいをする)と、瞼板の下方は牽引筋腱膜で支えられているので、瞼板はきれいに外を向き、赤い部分を見せることができる。

しかし内反症の眼瞼、つまり牽引筋腱膜が外れている眼瞼であかんべいをしようとしても下方の蝶番(ちょうつがい)がしっかりしていないので、瞼板はそのまま下方に移動し、赤い部分を見せられない。また瞼板と他の組織の境がくっきりとわかり、溝(黄矢印)が形成されるようになる。この溝の存在こそ、支えがはずれているという証拠なのである。

下眼瞼外反症

下眼瞼内反症の病態の如く、縦方向の支えである下眼瞼牽引筋腱膜が断裂したとする。同時に横方向の支えである内外嘴靭帯も弱くなると今度は外反になる。
下眼瞼の瞼板は縦幅が狭いので、どちらにでもひっくり返りやすい。強く瞬目して眼輪筋を使えば内反となり、他の原因が重なって瞬目の力も及びにくいと重力に伴って外反する。
治療は下眼瞼内反症と同じ手術に加えて、外嘴靭帯の縫着術を同時に行う。

毛根の方向性による内反症

瞼板自体の方向性には問題がなくとも、毛根周囲組織の関係で睫毛が内反することがある。代表的なものは先天性内反症で、毛根より前にある組織(前葉組織)の余剰により内反が生じる。軟部組織が豊富な幼小児に多く見られる。
また、加齢性皮膚弛緩による上眼瞼内反症や、外傷に伴う組織の拘縮による内反症も、同様に軟部組織と睫毛の関係により生じるものである。
これらの治療においては瞼板の支持組織にまで術野を広げる必要はなく、軟部組織に処理をする必要がある。

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