理論【霰粒腫】

はじめに

霰粒腫は、マイボーム腺の導管が梗塞を起こしたことを契機に生じるマイボーム腺の炎症で、病理学的には非感染性の慢性肉芽腫性炎症である。外分泌物がマイボーム腺内に過剰に貯留している病態にはじまり、周囲の軟部組織を破壊して肉芽腫を形成するに至る。

霰粒腫の病期分類

霰粒腫は病変の広がりによって3つのタイプに分けられる。これを

(a)限局型 瞼板内に限局している場合
(b)びまん型 瞼板前面を破壊し眼瞼前葉を含む眼瞼全体に炎症が及ぶ場合
(c)瞼結膜ポリープ型 瞼板後面を破壊し、結膜よりポリープ状に破裂している場合

と分類させて頂く。Harryと Missonの眼病理の教科書では、(a)をlocalized lesion、(b)をdiffuse lesionと呼んでいる。(a)限局型
皮下にしこりとして触れる。皮膚の発赤、疼痛はない。マイボーム腺の分泌物(主として脂質、他に導管上皮の角化物や腺細胞の崩壊産物)が導管内で閉塞を起こし、分泌物が貯留し、変性を生じている病態である。手術所見では炎症を伴わない嚢胞状病変に見えるが、病理学的には導管や腺小葉の正常構造は破壊されているため、限局型の状態でも慢性肉芽腫性炎症に分類されるべきと思われる。さらに貯留した内容物は変性を起こしており、病理学的には脂肪肉芽腫に相当するものである。
患者の希望があれば外科的治療を行うが、様子をみても構わない。

正常の下眼瞼。
瞼板の中には導管がある。


限局型霰粒腫。
分泌物が貯留し、瞼板の導管は変形している。皮膚側に進展しかけており、今後(b)びまん型に発展する可能性がある。


限局型霰粒腫。
分泌物が貯留し、瞼板の導管は変形している。瞼結膜側に進展しかけており、今後(c)瞼結膜ポリープ型に発展する可能性がある。

b)びまん型
しこりのみならず、皮膚に発赤、腫脹、疼痛を伴う。霰粒腫の内容物が、瞼板組織を破壊して周囲に漏出した状態である。限局型が進行した続発性病変と考えられる。これは外分泌物が軟部組織内に迷入した状態であり、変性した分泌物に対する異物処理反応が、腺外の軟部組織との間で起こり、その結果肉芽腫を生じる。
これは急性霰粒腫あるいは化膿性霰粒腫と呼ばれることがあり、細菌感染症である麦粒腫との鑑別が難しいことがある。 霰粒腫がびまん型に進展し皮膚に発赤を伴った場合、早めに処置しないと下記の状態へ移行する。
・さらに皮膚を破壊
炎症はコラゲナーゼ活性を高め、周囲の結合織、眼輪筋、皮膚のコラーゲン線維が溶解し、不可逆性の組織欠損が生じる。欠損が皮膚全層に至ると、皮膚が自壊し、肉芽腫が露出することがある。
ここで生じる皮膚欠損は皮膚割線を尊重しないものであるので、醜形を残すことがある。横方向は目立たないことが多いが、縦方向のひきつれや色素沈着は目立つことがある。皮膚に瘢痕を残す前に処置が必要である。

びまん型霰粒腫
分泌物が瞼板組織を破壊して周囲に漏出している。変性した分泌物に対する異物処理反応が生じている。周囲組織や皮膚に発赤を伴う。


びまん型霰粒腫
炎症反応が侵攻し、皮膚が菲薄化している。


びまん型霰粒腫
菲薄化した皮膚が自壊し、肉芽腫が露出している。皮膚は不可逆性の欠損となり、治癒後にも瘢痕を残す。

c)瞼結膜ポリープ型
小児に多く見られる。霰粒腫の内容物は圧の逃げ場を探しているわけであるが、瞼板を瞼結膜側に穿破した場合、そこで抵抗となるのは結膜一枚と大気圧のみである。よって小さな破裂口から内容が飛び出す形をとる。しかし血流が悪いのでいずれ破裂口の根本で壊死して脱落することが多い。臨床的に化膿性肉芽腫(pyogenic granuloma)と呼ばれることもあるが、病理組織学的には肉芽組織であることが多い。
低濃度のステロイド点眼で治療できることが多いが、難治性の場合には根部からの切除を要する。

瞼結膜ポリープ型
分泌物が瞼板組織を破壊して瞼結膜側に飛び出している。ポリープの根元が小さいので、いずれ壊死して脱落することが多い。

術式の選択

経皮的霰粒腫摘出術
適応
・すべての霰粒腫
・皮膚に発赤・破裂を伴う場合
・上眼瞼中央の場合

絶対的適応は、皮膚に強い発赤・破裂を伴う場合、上眼瞼中央の場合である。
皮膚側に貯留物が脱出していると考えられる場合には、皮膚を切開してアプローチしないとその異物を取り除くことができない。また上眼瞼中央の瞼結膜は角膜を保護するという重要な機能があるので、霰粒腫摘出のために傷つけてはならない。特にコンタクトレンズを装用する患者では瞼結膜に侵襲を加えずに治療するのが望ましい。さらにこの部分は縫合できないため、瘢痕を残した場合に追加治療が困難である。
上眼瞼皮膚には余裕があるので、皮膚割線に沿って切開を入れれば初心者の手術でも仕上がりがうまくいくものである。

経結膜的霰粒腫摘出術
適応
・結膜側の膿点がはっきりしている
・皮膚側に波及していないもので上眼瞼中央以外

一般的に行われている術式である。挟瞼器をかけて眼瞼を翻転し、膿点か最も内容物の多い部分をメスで穿刺する。裏返してしまうと意外にあたりがつけられなくなることがあるので、皮膚面から原因となっていると思われるマイボーム腺を同定して瞼縁の開口部をマークしておくと迷わずにすむ。
切開は縦方向で、必要最小限に行う。メスは角度の小さいものを選び、必要以上に表面の結膜を傷つけないようにする。

経皮的穿刺術
適応
・小児
・腫脹・疼痛が強く、貯留物が皮下に充満している場合

外来にて、尖刃のメスで皮膚を切開する方法である。無麻酔で構わない。皮膚に発赤・疼痛を伴うもので、貯留物を柔らかく触知する場合にはやってみる価値がある。貯留物は出口を探しているので、一箇所このように通り道を作ってやるとそこから内容物が排泄されることが多い。施術中に排泄がみられなくとも、表面に軟膏を塗って帰宅させるとあとからガーゼに排出されることがある。
中の貯留物を単純に抜くだけでは根治的治療にはならないが、内圧が高すぎてさらに開口部が閉塞するチェックバルブのような悪循環が解消されるので、そのまま正常の機能を取り戻す可能性がある。
小児で皮膚が菲薄化しているものは経皮的手術の適応であるが、全身麻酔に対して保護者が難色を示すことがある。その場合、最も薄い皮膚の一部を穿刺して内容物に生食を注入すると、完全な処置ではないが十分治癒することが多い。仕上がりの良さと全身麻酔のリスクをどのように考えるかは保護者の見解に任せている。

最後に

霰粒腫を摘出する際にcapsuleごと取り出すという話をしばしば耳にするが、そこで摘出しているのは、瞼板の一部と考えられる。霰粒腫はただ内容がたまっただけであるので、大切な支持組織である瞼板の組織はできるだけ温存するのが望ましい。ただし、肉芽の変化があって正常よりも盛り上がっている場合にはその限りではない。 
また、ステロイドを局所注入する方法では霰粒腫が小さい場合は効果があることもあるが、根本的な治療ではないため、ある程度以上の貯留物になると炎症を長引かせて瘢痕を残す結果となる場合がある。その時点から手術を始めても決して元通りにはならない。効果が不十分な場合には早めに手術治療に踏み切るべきと考えられる。
高齢者の症例で同じ場所に再発した場合は、悪性腫瘍を念頭に入れて病理検査を行うべきである。

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